開催概要

都市にあらたな「コモンズ(共有地)」を生み出すプロジェクト、シアターコモンズ。演劇公演、レクチャーパフォーマンス、ワークショップ、対話型イベントなどを港区内で開催!

シアターコモンズとは?

シアターコモンズは、演劇の「共有知」を活用し、社会の「共有地」を生み出すプロジェクトです。日常生活や都市空間の中で「演劇をつかう」、すなわち演劇的な発想を活用することで、「来たるべき劇場/演劇」の形を提示することを目指しています。演劇的想像力によって、異質なものや複数の時間が交わり、日常を異化するような対話や発見をもたらす経験をアーティストとともに仕掛けていきます。
具体的には、演劇公演のみならず、レクチャー形式のパフォーマンス、創作プロセスを参加者と共有するワークショップ、異なる声が交錯する対話型イベントなどを集中的に実施します。

シアターコモンズは、港区内に拠点をもつ国際文化機関、台湾文化センター、東京ドイツ文化センター、アンスティチュ・フランセ日本、オランダ王国大使館とNPO法人芸術公社が実行委員会を形成し、「港区文化プログラム連携事業」として港区内を中心に展開します。

ディレクター・メッセージ

都市をサバイブするための、ツールとしての演劇相馬千秋(シアターコモンズ・ディレクター)

東京で今、何が可能か。これは東京で暮らす人間ならば誰もが、頭の片隅で、あるいは体のどこかで考えてしまう問いではないだろうか。オリンピックに向けた開発が急ピッチで進み、都市の風景が激変していく。5年前なら、人々が自由に滞在できた公園やパブリックスペースが、ある日突然更地になり、ホテルや複合ビルの建設が進む。都市空間が不動産価値によってゾーニングされ、管理され尽くしていく。

もちろん単なるノスタルジーを主張したいわけではない。都市の繁栄を享受する生活者である私たちは、都市の経済活動と、その帰結としての変容を安直には否定できない。だが、この都市の構造や管理システムによって許容される行動や振る舞いは、いよいよ限定的なものになっているのではないか。都市は、その構造によって私たち、都市のプレイヤーの「振る舞い」を振り付ける。その振り付けのパターンが、どんどん画一化され、それゆえ不気味さを増す。この都市の驚異的な「速さ」と「正確さ」、物理的な「明るさ」と「清潔さ」は、そこに適合できる人間を推奨し、量産する。だが、都市が私たちに強制してくる圧倒的な「正しさ」は、もともと都市の中で見えづらいもの、見えなくされているものを、より不可視のものにしてしまっているのではなかろうか。

今、東京は世界から眼差されている。オリンピックへの視線が注がれているということだけではない。東京は今、かつてない数の観光客から眼差され、外国人労働者や留学生から眼差されている。この肥大化し続ける都市が、多様化する身体、言語、振る舞い、記憶などをどのように内包し、共存させていくことができるか。そして、それら多様なものが「ともにある」ことの負荷と可能性を、どのように受け止め、パブリックなモデルへと開いていくことができるか。

演劇は、そのモデルを思考し、実験するためのツールである。3回目となる今回のシアターコモンズは、いったんそう言い切ってみるところからスタートしていいだろう。演劇の共有知(コモンズ)を活用し、都市に共有地(コモンズ)を生み出す。これは「シアターコモンズ」というプロジェクトの定義であり理念である。では、演劇の共有知とはなんだろう。演劇は、人間が何かを演じ、それを見るという振る舞いであり、それが成立する集会の形態である。そこには、複数の人が集まり、ある共同体を形成し、言語や身体を介して感情や情報を交換するための、様々な技術が蓄積されている。私たちは今こそ蓄積された演劇の共有知(コモンズ)を参照し、あらたな応用方法を考案することで、今、この都市で有効なツールとして活用することが可能なはずだ。

例えば、東京の街を「他者」の視点で旅してみる。外国人、移民、あるいは、そこで生活しながらも「他者」であることを強いられてきた人とともに、東京を旅する。実在の登場人物たちの旅によって生まれたロードムービーから東京を追体験し、ともに議論する(田中功起「可傷的な歴史(ロードムービー)」)。修学旅行生の振りをして、福島から眼差された東京を集団でツアーする(高山明/Port B「新・東京修学旅行プロジェクト:福島編」)。かつて台湾人作曲家によって紡がれた音楽を集団で受容し、別の形に置き換える(ワン・ホンカイ「This is no country music」)。東京の日常で不可視にされている声や記憶を、私たちはいかに身体的に経験し、「ともにある」ことの負荷と可能性に向き合うことができるだろうか。

そもそも古代ギリシャにおいては、オリンピック競技も演劇も、その共同体が「ともにある」ための宗教行事であり、国家主催の祝祭イべントであった。市民たちは、身体の卓越性や悲劇・喜劇の劇作技術を競い合うことで「ともにある」ことを強化していた。だがそこに、女性、子供、外国人、奴隷が含まれていなかったのはよく知られた話だ。その排除によって担保された民主制を、私たちは古代のこととして片付けることができるだろうか。女性や子供、外国人、隷属的な環境で働く労働者、そしてあらゆる差別にさらされている人たちと、私たちは本当に「ともにある」のか。近代が強化した差別制度とその構造を乗り越えるための演劇は可能なのか(シャンカル・ヴァンカテーシュワラン「犯罪部族法」)。今回のシアターでは、古代ギリシャを規範とする西洋の劇場/演劇の起源と構造を参照しつつ(マキシム・キュルヴェルス「悲劇の誕生」)、それを非西洋の視座から脱臼する必要もあるだろう。

そもそも古代ギリシャをモデルにしてリメイクされた近代オリンピックは、国民国家の枠組を強化する、人類史上最大の祝祭イベントである。それが19世紀末から20世紀にかけて、帝国主義・植民地主義の時代に発明・発展されたことも偶然ではない。選手が国家を代表するルールの中では、個々のアスリートの卓越性が、国家や民族の優位性に結び付けられてしまう政治性を拒否することは難しい。それでもなお、個人として「走り続ける」こと(オグトゥ・ムラヤ「Because I Always Feel Like Running」)。 マスメディアに支配され、テロやプロパガンダにも利用されたオリンピックの周辺に、ありえたかもしれないミクロなナラティブを挟むこと(ラビア・ムルエ「歓喜の歌」)。血と汗とフラッシュにまみれた20世紀のオリンピック史を、アーティストの視点から振り返ること自体が、今の東京では有効な身振りになり得るはずだ。

今回初の試みとなるリーディング・パフォーマンスでは、今の東京で有効な言葉とは何かという問いを巡って、3人の演出家島崇中村佑子萩原雄太と議論を重ねた結果、3つの戯曲を東京にぶつけることになった。その言葉を声に出して身体的に経験するのは、観客=参加者自身である。スーザン・ソンタグ、パブロ・ピカソ、太田省吾。異なる時代を生きた媒介者たちの言葉を、今の東京に召喚したとき、私たちの身体にはどんな変容が訪れるだろうか。その時、都市はどのように二重化され、どのように他所と他者を介在するのだろうか。

もちろん、シアターコモンズ自体も、都市が規定するルールやシステムから逃れることができない。2020年に向けて敷かれた太い矢印と無関係ではない。しかしだからこそ、私たちはこの一方向に流れることをどこか強要されるシステムの裏をかき、内側から攪拌するための方法を、インディペンデントな立ち位置から探っていかねばならないだろう。個人を振り付ける大きな力を前に、個人が個人として都市のプレイヤーであり続けるために、私たちはどんな演劇を発明できるだろうか。一方向に進む時間とは別の時間の流れを生み出し、未来と過去をつなぐこと(小泉明郎「私たちは未来の死者を弔う」)。複雑な世界を複雑なまま見るために、誰もが着脱できる小さな身振りをそれぞれの身体や思考にまとっていくこと。それを可能とする装置としての演劇/劇場の進化系を模索すること。シアターコモンズは、演劇の可能性を拡張しながらこの社会でサバイブしていくための、ささやかにして効果的な方法を、みなさんとともに実験していく場である。ぜひ、その場にご参加いただけたら幸いである。

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基本情報

  • シアターコモンズ ’19
  • 会期|2019年1月19日(土)、20日(日) & 2月22日(金)〜 3月13日(水)
  • 会場|東京都港区エリア各所
  • 主催|シアターコモンズ実行委員会
  • 台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター
  • ゲーテ・インスティトゥート 東京ドイツ文化センター
  • 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
  • オランダ王国大使館
  • 特定非営利活動法人 芸術公社
  • 共催|

    港区 平成30年度港区文化プログラム連携事業
    慶應義塾大学アート・センター

  • パートナー|SHIBAURA HOUSE
  • 助成|アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)

クレジット

  • シアターコモンズ実行委員会
  • 委員長|相馬千秋(特定非営利活動法人芸術公社 代表理事)
  • 副委員長|王淑芳(台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター長)
  • 委員|ペーター・アンダース(東京ドイツ文化センター所長)
  • 委員|サンソン・シルヴァン(在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本)
  • 委員|バス・バルクス (オランダ王国大使館)
  • 委員|大舘奈津子(特定非営利活動法人芸術公社 理事)
  • 監事|須田洋平(弁護士)
  • シアターコモンズ実行委員会事務局
  • ディレクター|相馬千秋(芸術公社)
  • 制作統括 | 戸田史子(芸術公社)、清水聡美(芸術公社)
  • 制作|大舘奈津子(芸術公社)、富樫多紀、田辺裕子
  • 制作アシスタント|山里真紀子
  • 企画アドヴァイザー|岩城京子(芸術公社)
  • 広報・編集|柴原聡子、橋場麻衣
  • 翻訳|リリアン・キャンライト(Art Translators Collective)
  • アート・ディレクション&デザイン|加藤賢策(LABORATORIES)
  • ウェブデザイン|加藤賢策、伊藤博紀(LABORATORIES)
  • インターン|江尻悠介、黒川知樹、小橋清花、鈴木健斗、関あゆみ、中畔由貴、中尾幸志郎、幸村和也、ルー・エイミ・ティファニー
  • 経理|松下琴美
  • 法務アドヴァイザー|須田洋平(弁護士/芸術公社)
  • シアターコモンズ'19 技術スタッフ
  • 舞台監督|ラング・クレイグヒル
  • 照明|山下恵美(RYU.Inc)、帆足ありあ(RYU. Inc)、大庭圭二(RYU. Inc)
  • 音響|稲荷森 健、市村隼人
  • 映像|石塚 俊
  • 記録映像・写真|佐藤 駿