
シアターコモンズ’26では創設から10周年を記念し、これまでシアターコモンズで培われてきたキュレーションの思想と実践を次世代と共有する特別プログラム「次世代のキュレーターのためのコモンズ・キャンプ2026」を開催いたします。
シアターコモンズ’26の会期中、国内外から演劇祭ディレクターやドラマトゥルク、アーティストらを講師に迎え、レクチャー、フィールドワーク、インディペンデント・アートスペース視察、そしてシアターコモンズへの参加等を通して、未来の企画の種を育てるプログラムです。
【ディレクター・メッセージ】
シアターコモンズは今回で10周年となります。2017年の初回から10回にわたり、これまで一貫して「演劇や劇場に蓄積されてきたコモンズ/共有知を活用し、実際の都市や社会の中にあらたな共有地/コモンズを生み出す」という理念のもと実施してきました。
この10年の実践においては、大きく3つの問いがあったように思います。
一つは、今日の日本、東京において、インディペンデントは可能か?という問いです。インディペンデントである、ということはつまり、個人や個人の集まりとしての集団が、自治体や企業からの委託や要請を受けることなく、自らの意思と独立性を持って、自分達で企画からファンドレイズ、実施までを主催・遂行する活動形態を意味します。特にシアターコモンズを始めた10年前も今も、シアターコモンズは、都市の中にある複数の場所をテンポラリーな「コモンズ」として活用することで存在してきました。その多くは、無償で使える場所であること、フレキシブルにクリエーションを行える環境であることを念頭に、インディペンデントとしての持続可能性を探ってきました。固定した場所を持たないからこそ、10年、やってこられた面も大きいと感じています。
二つ目は、「パフォーマンス」という概念を軸とし、特定の空間や既存のジャンルの枠組に縛られない「パフォーマティブな出来事や時間」を生成させるさまざまな試みです。物理的に固定された「舞台/ステージ」をもたないゆえの自由さから、VRパフォーマンス、リーディング・パフォーマンス、セラピー・パフォーマンス、ツアー・パフォーマンスなど、作品と観客、観客同士、また観客の内側に生成する相互作用こそを演劇の本質と捉えた試みを仕掛けてきました。こうした試みは芸術史や演劇史においてどのような価値があるのでしょうか。
三つ目は、シアターコモンズと社会、世界との関係です。10回のシアターコモンズのうち、4回がパンデミックの強い影響下にあったこと、また2016年から現在に至るまで、世界各地で戦争や分断が深刻化した時代に開催されてきたことを特筆しておく必要があるでしょう。そうした社会の分断は、あいちトリエンナーレ2019、ドクメンタ15といった国際芸術祭が社会の亀裂を可視化する装置としても機能するという状況も顕在化しました。またアジアにおいては、新自由主義的な市場が拡大し人々のライフスタイルが均質化する一方、表現と言論の自由が保障されている空間はじわじわと減少しているのではないかという不安も拭えません。
本プログラムは、シアターコモンズの10年の蓄積をベースとしながらも、あいちトリエンナーレ2019、国際芸術祭あいち2022、ドイツでの世界演劇祭テアター・デア・ヴェルト2023といった、私自身が関わってきた芸術祭の事例に加え、同時代で共に葛藤を抱えてきたキュレーター、ドラマトゥルク、アーティストの同志たちとの対話を通じてこれからのアジア地域において可能なキュレーションの形について、共に学び合うためのスクールです。1日1名のゲストを迎え、レクチャーを聞き、共に考え、議論をします。そして、一人一人の参加者が、ここ2〜3年のうちに立ち上げたいキュレーションの計画を考案し、会期中に講師や仲間との議論を経てブラッシュアップし、最終プレゼンに挑みます。
シアターコモンズ’26
ディレクター
相馬千秋

©NÓI CREW
【募集要項】
プログラム
⚫︎シアターコモンズの全演目、全イベントに参加(チケット代は参加費に含む)
⚫︎レクチャーの受講
– 国内外から、演劇祭ディレクター、アーティスト、研究者を招聘し、キュレーションの基礎からアートフェスティバルの立ち上げ方まで、幅広くレクチャーを行う。
⚫︎国内外のキュレーター陣とのネットワーキング
⚫︎シアターコモンズ会場周辺を中心としたフィールドワーク
⚫︎都内パフォーミングアーツ上演施設の視察
– 劇場、ギャラリーや都内のオルタナティブスペース等も併せて視察。
⚫︎企画書のブラッシュアップとディスカッション
– 今回の集中キャンプを経て、1人1つ企画を考案する。
⚫︎最終プレゼンテーション
ーこんな人におすすめー
⚫︎パフォーミングアーツのキュレーションに興味がある人
⚫︎社会の中でアートを実装する思考や方法を学びたい人
⚫︎自分の経験や知識をシェアし、他の参加者からも柔軟に学びたい人
対象
定員:20名程度
*応募者多数の場合は選考
*原則日本語のプログラムですが、英語でのサポートが必要な方は、何らかの措置を検討します。まずはご応募ください。
参加費
一般|55,000円
学生|33,000円
*全演目のチケット代、交流会費含む
*首都圏以外から参加する方には、3名まで宿泊場所提供可(希望者多数の場合は選考)
日程
2026年2月26日(木)〜3月8日(日)
<詳細スケジュール>
*各演目の時間等、スケジュール詳細については今後変更する可能性がございます。確定スケジュールについては、選考後に別途ご案内いたします。
*各会場間の移動は徒歩と電車を予定しています。都内交通費については各自負担となりますので、ご了承ください。
1日目:2月26日(木)
18:00-19:00 イントロダクション自己紹介
19:00-21:00 レクチャー①
【パフォーマンスを生成する思考と磁場をめぐって:四半世紀の実践から】
「パフォーマンス」とは何か。そして「パフォーマンス」をキュレーションするとはどういうことなのか。理論と実践の両輪から、本プログラムのベースとなる問いについて共有し、その具体例として世界演劇祭やシアターコモンズ等で制作された先駆的なパフォーマンスを分析的に学ぶ。
講師:相馬千秋
2日目:2月27日(金)
14:00-15:00 シアターコモンズ’26観劇(オプション)
16:30-18:30 レクチャー②
【日本の演劇的想像力の源泉を、大掴みに把握する―芸能の起源から現代のドラマトゥルギーまで】
日本という地域において、演劇的な想像力はいかに育まれてきたのか。祭、芸能、宗教との関係、民話や神話から生まれた物語など、日本の演劇的想像力を下支えする歴史や構造について大掴みに学ぶ。
講師:木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰、まつもと市民芸術館芸術監督団団長)

Photo by Takeshi Hirabayashi
19:00-21:00 シアターコモンズ’26観劇①
3日目:2月28日(土)
11:00-13:00 レクチャー③
【西洋演劇史・演劇学の基本概念とドラマトゥルギーの関係】
西洋を中心とした近代演劇史において、ドラマトゥルクやキュレーターが担ってきた役割とは何か?またその現在地はどこにあるのか?演劇学の基本概念とドラマトゥルギーの関係について、理論と実践の両輪から俯瞰する。
講師:決定次第発表
14:00-15:30 個人リサーチ
16:00-19:00 シアターコモンズ’26観劇②
19:30-20:30 シアターコモンズ’26観劇③
4日目:3月1日(日)
11:00-13:00 レクチャー④
【21世紀前半の、フェスティバルの地政学とキュレーターの生態系】
この20年で、フェスティバルの地政学は大きく変容した。欧州を中心とした演劇祭のサーキットに対し、アジアや中東、南米やアフリカでも独自の演劇祭が開催されている。今日の演劇祭・芸術祭・マーケットの世界地図を確認し、その地政学と、そこに生息するキュレーターの生態系の変化を読み解く。
講師:川崎陽子(KYOTO EXPERIMENT 共同アーティスティック・ディレクター)+相馬千秋

photo: Takuya Matsumi
14:30-18:00 フィールドワーク
5日目:3月2日(月)
個別リサーチ
6日目:3月3日(火)
13:00〜 フィールドワーク:都内のインディペンデント・スペース訪問(オプション)
19:00-21:00 レクチャー⑤
【パフォーマンスが生まれる場の制度と構造ーインスティチューションか、インディペンデントか?】
「演劇」はジャンルであると同時に、近代が作ってきた劇場の「制度」でもある。その制度の中では今、何が問題となっているのか。ドイツの劇場制度と日本の演劇制度の比較、インスティチューションとインディペンデントの違いをもとに、今どのような場で演劇制作が可能かについて考察を行う。
講師:橋本裕介(Berliner Festspiele “Performing Arts Season” 芸術監督)(オンライン登壇)
聞き手:相馬千秋

© Marlena Waldthausen
7日目:3月4日(水)
17:00-18:30 シアターコモンズ’26観劇④(予定)
19:00-21:00 レクチャー⑥
【危機と演劇―演劇は共同体の危機をどう乗り越えるか】
東日本大震災後に展開された数々の演劇プロジェクト、あいちトリエンナーレ2019の大炎上で立ち上がったJアートコールセンターなどを事例に、非常事態や例外状態における演劇や演劇的思考の可能性を探る。
講師:高山明(アーティスト)(オンライン登壇)
聞き手:相馬千秋

©Yuji Oku
8日目:3月5日(木)
17:00-21:00 中間発表&フィードバック
9日目:3月6日(金)
個別リサーチ
17:00-18:30 シアターコモンズ’26観劇⑤(予定)
10日目:3月7日(土)
13:00-17:00 個別チュートリアル
17:30-19:00 シアターコモンズ’26観劇⑥
19:00-21:00 シアターコモンズ’26観劇⑦
11日目 3月8日(日)
13:00-18:00 最終プレゼンテーション
18:00〜 交流会
会場
シアターコモンズ会場を中心とした都内各所(予定)
募集期間
12月26日(金)〜1月16日(金)23:59締切。
(選考結果は1月21日(水)までにメールにて通知。)
応募方法
こちらのGoogleフォームよりお申し込み下さい。
お問い合わせ
シアターコモンズ実行委員会事務局
E-mail|artscommons.tokyo.inquiry@gmail.com