Press Release | 2023.12.21
《都市のヴィジョン ― Obayashi Foundation Research Program》
第4回助成対象者 イム・ミヌク「Hyper Yellow」プロジェクト詳細決定
この度、公益財団法人大林財団が2017年から隔年で行ってきた助成事業《都市のヴィジョン》第4回助成対象者イム・ミヌク(Lim Minouk)のプロジェクト詳細が決定しました。
本事業は、都市のあり方に強い興味を持つ国内外のアーティストを選考、従来の都市計画とは異なる視点から新たな都市のあり方を提案・提言するものです。今回の助成対象者である韓国出身アーティストのイム・ミヌクは、芸術と政治、過去と現在、個人と共同体を横断しながら、現代社会では忘れられ隠された声や存在を様々な手法で呼び起こす創作活動に取り組んでいます。
イム・ミヌクは、2024年2月29日(木)-3月12日(火)に東京の駒込倉庫にて展覧会「Hyper Yellow」を、3月2日(土)-3日(日)に隅田川と東京湾周辺を屋形船で周遊するパフォーマンス「S.O.S – 走れ神々」を開催いたします。展示のタイトル「Hyper Yellow」、つまり「イエローを超過した」状態は、特定の色や人種を指す言葉を越え、どこにも存在しないが、どこにでも存在する境界線と壊れやすい関係に置かれた原本の意味を問いかけるイエローの感覚へと私たちを誘います。東大寺のお水取りに使われるお松明を再解釈したオブジェや、中国と韓国、日本に伝来した十一面観音が観光客として登場するナラティブを取り入れた映像は、宗教的伝統を遂行する都市の中で、川に浮かぶ観光客のような、他者が持つ新たな認識の可能性に導きます。パフォーマンスでは、屋形船の中に流れる音楽やガイド、川辺で行われる出来事の交錯によって到来すべき海へと案内します。このように、日本における祭儀に現れる平行する世界と流動的な境界に着目し、歴史、国家、信仰、そして生態学的・地理的感覚の再編成を試みる予定です。
プロジェクト概要
タイトル:イム・ミヌク「Hyper Yellow」
•展覧会「Hyper Yellow」
プレビュー:2024年2月29日(木) 16:00- *作家在廊予定
会期:2024年3月1日(金)-3月12日(火) 12:00-20:00
会場:駒込倉庫(東京都豊島区駒込2-14-2)
入場料:無料
•パフォーマンス「S.O.S – 走れ神々」
会期:2024年3月2日(土)、3日(日) 17:00-18:30
会場:隅田川屋形船(「越中島桟橋」発着、東京都江東区越中島1丁目先 越中島公園内)
入場料:無料
参加方法:要予約。2024年1月末から、大林財団及び、シアターコモンズのウェブサイトより事前予約の受付を開始する予定です。
トークイベント
本プロジェクト開催にあわせて、イム・ミヌクのトークイベントを開催します。
日時:2023年3月4日(月)17:00-18:30(開場 16:30)
会場:(株)大林組30階レセプションルーム
品川インターシティB棟30階(東京都港区港南2丁目15番2号)
入場料:無料
参加方法:要予約。2024年1月末から、大林財団及び、シアターコモンズのウェブサイトより事前予約の受付を開始する予定です。
(作品について)
「Hyper Yellow」
観光客は常に二重の視線を装着したまま街を旅する。空と地の間で近いものと遠いものを同時に捉えながら、見慣れたものと見知らぬものの間を往復する。彼らは政治的な関心がなく、言語的なコミュニケーションがなくても、包容性と慈悲を与える神のように、風と共にやってきては雲のように散っていく。自分が知っているものと知らないものを比較しながら意識の転換を図ろうとする観光客にとって、都市は常に一歩下がった存在である。これは都市と川の水の関係に似ている。お互いに絶え間ない変化と流れの中で、決してすべてを教えてくれず、一部にのみ参加し、イデオロギーを超越する。なぜ川辺にはいつも走る人がいるのか、手を振る人たちは誰を見送るのか、私に別れを告げるのか。松尾芭蕉とパリの恋人たち、十一面観音が平行する世界は、最も具体的な瞬間と最も抽象的な視点を同時に贈る。これは、観光客が複数の世界の間で自分の人生を振り返り、新たな飛躍を得ようとするとき、過去と未来の間で微かに気づく方向性のようなものだ。屋形船は最後の箱舟以後の放浪を提案する。歴史は友情と信念を守ろうと走る者たちが立てる都市の煙のようなものだからだ。
イム・ミヌク
作家略歴
イム・ミヌク (Lim Minouk, 1968-)
アーティスト。映像、インスタレーション、パフォーマンス、音楽など、さまざまな表現手段を取り入れ、思考の幅を拡張して、ジャンルやメディアの境界を超えた多様な作品を制作。彼女の創作活動は、歴史の喪失、断絶、抑圧されたトラウマを想起させる。急速な社会経済的な発展、再開発とその結果として生じるコミュニティの移動など、社会、マスメディア、政治と市民の関係に長期的なテーマとして取り組んでいる。
言語活動、あるいは表現の政治学に基づいた彼女の作品は、そのパフォーマティブな彫刻的オブジェやインスタレーションにおいて、過去の出来事の単なる再現ではなく、構造から立ち現れる非人間的な視線の存在を想像させ、気づかせることで、経験、記憶、感情を呼び覚ます。観客をパフォーマンスツアーとして組み込んだ演劇的ともいえる参加型の作品などもあり、表現方法は多様である。2014年より韓国芸術総合大学で教鞭を取る。
ウェブサイト:minouklim.com
主な展覧会
2020 We Do Not Dream Alone, アジア・ソサエティ・トリエンナーレ(ニューヨーク、アメリカ)
2019 あいちトリエンナーレ、愛知芸術文化センター(愛知)
2019 リヨンビエンナーレ(リヨン、フランス)
2016 台北ビエンナーレ(台北、台湾)
2016 瀬戸内国際芸術祭、男木島(香川)
2016 シドニー・ビエンナーレ(シドニー、オーストラリア)
2015 他人の時間、東京都現代美術館(東京)
2015 個展「Minouk Lim – The Promise of If」PLATEAU サムソン美術館(ソウル、韓国)
2014 光州ビエンナーレ(光州、韓国)
2012 個展「Minouk Lim: Heat of Shadows」ウォーカーアートセンター(ミネソタ、アメリカ)
過去作品画像
イム・ミヌク《S.O.S – Adoptive Dissensus》(2009)
ⓒ the artist
イム・ミヌク《Portable Keeper》(2009)
ⓒ the artist
イム・ミヌク《Si tu me vois, je ne te vois pas》(2019)
Lyon Biennale installation view. ⓒ the artist
イム・ミヌク《Portable Keeper_Sea》(2020)
ⓒ the artist
パブリック・コレクション
グッゲンハイム美術館、テート・モダン、LACMA、韓国国立現代美術館、蔚山市立美術館、ソウル市立美術館、ポンピドゥー・センター、ウォーカーアートセンター、KADIST財団、ヒューストン美術館
|《都市のヴィジョン— Obayashi Foundation Research Program》 について
この財団は、1998年9月に、「財団法人 大林都市研究振興財団」として設立されました。その名前が示すとおり、都市に暮らす人々に豊かな生活をもたらすような都市づくりを実現するために研究活動に従事されている方々への支援を通じてわが国の都市研究の発展を後押ししようと微力ながら努力してきました。2010年9月に内閣府から公益財団法人として認定していただき、2011年9月に現在の「公益財団法人 大林財団」の名称に変更しましたが、同じ基本理念を貫いて来ました。日本は、戦後復興を経て高度経済成長を達成し、物質面ではかなり豊かになり、都市環境も効率的で利便性の高いものとなりました。しかし、豊かになったと言われる日本の都市も、そこで日常生活を営む人々の心も本当に豊かになったかと言えば、答えに窮するところです。戦後しばらく日本は戦争で焼きつくされた国土を復興させるのに必死でしたし、他に類を見ないほど自然災害の多い国であることを考えれば、まずは国民の生命を守る頑強なインフラの構築が長い間国の使命であったことは頷けます。また一方で、世界を見ると、貧困にあえぐ地域が多数存在し、その人たちにとってはその地域のどのような施設も生きてゆくための手段でしかありません。さらに、これは世界中で言えることですが、都市への過剰な人口集中、自動車の普及や産業の集積などによる大気汚染、自然環境の喪失、温暖化ガスによる異常気象の発生などの諸問題が生じました。近年日本では、少子高齢化に伴い人口が減少する中で空き家の放置や孤独死といった社会問題も起きています。そこで、人々に豊かな生活をもたらすような都市づくりというものを再考し、人との交わりという部分で都市を研究することに何らかの貢献ができないか。都市があり、人がいて、そこでの様々な関わり、例えば芸術、経済、環境、歴史など都市と人間に関係する幅広い分野での研究を支援しようと考えたわけです。この助成事業では、都市工学や都市の専門家ではなく、豊かで自由な発想を持ち、さらに都市のあり方に強い興味を持つ国内外のアーティストにお願いし、都市における様々な問題を考察し、住んでみたい都市や新しい、あるいは、理想の都市のあり方を研究してもらうこととしました。考えてみれば、都市というテーマを研究したり考察したりするアーティストを支援している組織というものはこれまでなかったと思います。それに応えるのが、この《都市のヴィジョン— Obayashi Foundation Research Program》という助成事業です。
公益財団法人 大林財団 理事長
大林剛郎
|推薦選考委員
選考委員長
野村しのぶ 東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター
選考副委員長
保坂 健二朗 滋賀県立美術館 ディレクター(館長)
選考委員
飯田 志保子 キュレーター/大坂 紘一郎 アサクサ 代表/藪前 知子 東京都現代美術館 学芸員
委員長コメント
パンデミックによる混乱を経験した後、社会が少しずつ日常を取り戻していくなかで、第4回助成対象者の選考が始まりました。アーティストによる都市のあり方の自由な研究・考察を支援する本助成は、私たちが経験したさまざまな困難や制約を思い起こすとき、その意義と可能性がますます実感されるものとなりました。
このたびの選考では、変革期の只中にある現状を意識しつつ、より広い視野で都市と社会に向き合い、ひとつの解に収斂されることのない実践が期待されるアーティストに注目しました。加えて、これまでにも候補に挙がったものの採択に至らなかった地域のアーティストを選出したいという委員の総意もありました。過去3回の選考においてまだ選ばれていない、(単独で活動する)女性アーティストを優先したいという意見もあり、これらの議論の結果として、韓国出身・在住のイム・ミヌクが選出されました。
活動の初期から、自国の急速な民主化・近代化および都市開発がもたらしたコミュニティの分断や歴史の喪失をテーマに作品を制作してきたイム氏は、困難にあってなお人々に潜在する連帯への希求とそれが持つ可能性を、綿密なリサーチと多彩なアウトプットによって詩的かつ大胆な表現へと昇華させてきました。
イム氏は、韓国ではコミュニティの精神的な支柱となる信仰や伝統が失われてしまったと感じています。それに対し、日本の祭りではそれらが継承されていることに大きな関心を寄せ、本助成のリサーチの起点としました。とりわけ水と火にまつわる古来の儀式を調査し、東京の河川と架空の海を接続させることによって、歴史や社会が規定してきた枠組みや境界の存在、そして本来的には自由にたゆたう水が示すものごとの両義性を照射します。参加型パフォーマンスツアーおよび展覧会としてリサーチの成果を発表したいという提案からは、探求の先にある答えがひとつではないことと、多義性を許容する姿勢が印象的で、硬直化した現代社会からの脱却と未来のために私たちが進むべき道=ヴィジョンを提示してくれるアーティストであると考えました。
野村しのぶ
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公益財団法人 大林財団
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