レポート

芸術史ラボ|第1回レポート

2018.8.16

7月30日にシアターコモンズコモンズ・ラボ、芸術史ラボの第1回が行われました。

第1回は、劇団「青年団」の主宰であり、劇作家・演出家の平田オリザさんを講師に迎え、「言文一致と現代口語演劇から振り返る、日本・近代・演劇史」というテーマで行われました。

3時間半にわたる講義は、前半が平田さんのレクチャー、後半が参加者とのディスカッションを中心に実施されました。
まず、前半では、平田さんが自身の経験を中心に、日本と海外での演劇の受容の違いや、日本の近代演劇史について説明してくださいました。

平田さんは、海外では劇場や舞台芸術が社会や人類に貢献するという明確なミッションを持っているのに対し、日本はよく言えば独自の発展を遂げている、悪く言えば閉塞化しているのだと語ります。
それでも近年、フェスティバル・ドートンヌ(パリの舞台芸術祭)に平田さんをはじめとして4名もの演出家が参加したことなどを例に、日本に対しても求められていることが変わっているのではないかとおっしゃっていました。

さらにレクチャーでは、日本の「独自の発展」を遂げた演劇を考察するにあたり、近代演劇史についても言及されていました。
1924年の築地小劇場開設を大きな結節点としながらも、当時の国策としての音楽・美術の制度化・組織的輸入に対し、非常に緩い枠組みの中で輸入されていった点や、1930年代のファシズム期に入るまで、新劇が成熟するのに十分な時間を持ちえなかった点が現代演劇にも影響しているのではないかと平田さんは指摘します。
また、戦後の近代文学などとも比較して、近代演劇への決定的な総括や転換期がないまま戦後演劇ブームに入ったことなども、演劇における「日本語」の問題として取り上げておられました。

さらに60年代に隆盛を迎えたアングラ演劇が、「人間は、そんなに理性的にしゃべるものではない」ということを提示したのに対し、90年代以降の演劇は「人間は、そんなに主体的にしゃべるのものではない」という問題意識があるのだそうです。

以上のような日本の近代演劇史に対する自身の違和感や疑問、海外での留学経験による日本語の相対化などが、平田さんが現代口語演劇のスタイルを確立した背景にあるそうです。

平田さんは自身の講座を「牽強付会な演劇史」と言いますが、多様な視点から語られる今回の講座は、多くの示唆に富んでいたように思います。

後半は、事前に平田さんから提示された課題をもとに、受講生同士・平田さんとの対話を交えながら進められました。

受講生からは「平田オリザ以降どれくらい日本演劇が更新されたか」「日本人の身体性をどう考えるか」と言った質問がなされたり、平田さんからは会話(conversation)と対話(dialogue)の違いや、青年団が移転を表明した城崎での活動について、さらには自身の活動に対する動機について語られるなど、非常に濃密な時間を過ごすことができました。

受講生の皆さんの積極的な参加もあり、あっという間の芸術史ラボ第1回でした。あと4回の講座も非常に楽しみです。

(芸術公社インターン・幸村和也)

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