夏期集中ラボ 公開プレゼンテーション2日目|盛岡
2017.8.27
ついに最終発表の本番2日目となりました。正真正銘、今日がみちのくアート巡礼キャンプの最後の1日です。発表するのは、加藤果琳さん、櫻谷翔吾さん、上地里佳さん、寺澤亜彩加さんの4名。講師は昨日に引き続き、服部浩之さん、石倉敏明さん、瀬尾夏美さん、相馬千秋の4名です。
加藤果琳「インディペンデントカリンバ」
最終日のトップバッターは加藤さん。加藤さんのプラン内容はずばり「立っているカリンバを作る」。カリンバというのは金属の棒を用いた楽器で、通常、平行にならんでいる棒をはじいて演奏します。その棒をあえて立たせたものを作り、(たとえ音が出なくとも)演奏することで、自らが意志を持って独立した人間であることを確かめながら、リサーチで出会った被災地の就労支援施設で暮らす人々と向き合いたいというプランでした。プレゼンテーションは、オリジナルのイラストや小気味いい冗談も交えながら、軽やかに進んでいきました。
講評では、「カリンバというユニークな題材に飛躍したのは驚いた。加藤さんが“出会ってしまった”場所で、このまま制作を続けてほしい」(服部)、「リサーチで出会ってしまったものが大きすぎて、それを抽象化する力が追いついていない。どんなメディアやアプローチがふさわしいのかを、たくさん考えてたくさん実践していってほしい」(相馬)など、加藤さんが出会った強い対象との向き合い方に重点を置いたアドバイスがされました。
櫻谷翔吾「自分を認めて、そこから、、、」
身ひとつで全員の前に立った櫻谷さんは、まず前日に提出していたプランタイトルを変更。プレゼンテーションの形をとらず、1ヶ月で再確認した「自分の在り方」についての想いを言葉でぶつけました。 “対話”をキーワードにキャンプに参加したけれど、刺激的な講師の方々や受講生の仲間と出会うことで浮き彫りになったのは、自分の「無さ」。作品のプランではありませんでしたが、自らを「みちのくアート巡礼キャンプの居残り生」と位置づけ、自分と向き合うべく引き続き東北をまわりたいとまとめました。
講師の方々からは、いくつかの厳しい言葉——「自分を定義するために旅をするというのは、豊かな旅とは言えない。ただ見る、ただ感じることを大事にしてみてほしい」(瀬尾)、「そもそも“自分がある”なんてことは幻想」(相馬)——も。「自分のなかだけでぐるぐると考えるのではなく、一度外に出してみるのがいい。なにかを書いたり作ったり、とにかく体を動かしてみよう」(服部、石倉)というアドバイスを受け、最後は、かならず作品を作ると宣言し締めくくられました。
上地里佳「2つの地点旅行社」
ふだんはアートプロジェクトを支援する側にいる上地さんが、新しいアートプロジェクトの構造を作るべく考えたのは、土地土地の記憶を地図に落とし込むことで、かつての風景について想起したり記録したりすることを試みるリサーチ型プロジェクト。出身地である沖縄県宮古島の風景がどんどん変わっていくのを受け、リサーチで赴いた岩手県宮古市——沖縄県宮古島と同じ名前を持つ——の風景を記憶によって残すことができないか、という問題提起でした。過去と現在という2つの地点を結ぶ旅行を提供し、まちに想いを馳せることができるのではないかとプレゼンテーションしました。
講評では、沖縄県宮古島と岩手県宮古市については「名前が同じというだけでもじゅうぶんな起点になるので、もっとダイナミックな規模で“2つの地点”について考えてみてほしい」(瀬尾)、そして「旅行社」というタイトルに関しては「本当に作ってしまえばいいと思う。そうすれば、必要なスタッフだったりやってみたいツアーだったり、具体的なプランがわいてくるはず」(服部)というコメントがされました。
寺澤亜彩加「マウンテン/マウンテン」
受講生最年少の寺澤さんが、プレゼンテーションの最後を飾ります。合宿ワークショップで抱いた陸前高田の風景にたいする違和感をもとにふたたび高田を訪れ、出会ったのは愛宕山という山。高台造成のために削られ、もとの姿を失ってゆく愛宕山にアクセスするために寺澤さんが考えたのは、1対1の対話型演劇。スペースを訪れた人と、1人の演者の対話によって物語は進みます。最後にかつての愛宕山の頂上があった場所から撮った映像を見て、演劇は終了。変わりゆく風景を見つめる試みが、詳細なプラン説明を通して提示されました。
ディテールまで考えられたプランを受け、講師からは「中間発表、リハーサル、最終発表と、毎回具体化されたプランを提示できるのはすごい」(服部)とのコメントが。プランについては、「山の不在を提示するのに映像というメディアが本当にふさわしいのか、もっと考えてみてほしい。現段階だと、足し算的にしかメディアが機能していない」(瀬尾)など、作品のフレームについて熟考するようアドバイスがされました。
最後の総評では、「みちのくアート巡礼キャンプのすごいところは、これからみなさんが野放しになること。プランを実行するのも大事だけれど、とにかくこの経験を生かして、これからを生ききってください」(瀬尾)、「ふだん見ないようにしているものをあえて見つめるのが、このプロジェクト。ここで得た気づきが、10年後20年後、ふと力になるかもしれない。長いスパンで、自分の問いと向き合ってください」(服部)、「結果ばかりが重視される世の中で、なにかがスタートする瞬間に立ち会えて非常におもしろかった。みなさんから吸収できることもたくさんあって、勉強になりました」(石倉)、「これからはみなさんが、わたしに仕返しする番。ここで掴んだものを、必然性のあるタイミング、必然性のある場所で、ぜひ展開していってほしい。そのときは、絶対声をかけてください」(相馬)と、受講生のみなさんへ激励のコメントが送られました。
1ヶ月という短いながらも非常に濃い時間を、東北で過ごした受講生のみなさん。「東北から問いを立てる」ことと必死に向き合った成果が、この2日間にしっかり現れていました。みちのくアート巡礼キャンプはこれで終了ですが、ここは始まりでもあります。キャンプで得た経験が、数日後、数ヶ月後、数年後、数十年後、さまざまな場面で実を結ぶことになるでしょう。その日が本当に楽しみです!