森山直人ラボ|第6回
2017.12.10
11/23に、森山直人ラボの第6回目が行われました。
このラボでは、演劇批評家であり京都造形芸術大学舞台芸術学科教授の森山直人氏をディレクターに迎え、舞台芸術史と「いま・ここ・わたし(たち)」を接続する技術というテーマのもと、各回講師を招いて講座を行っています。今回は、日本のアングラ演劇を専門に研究されている演劇批評家・高橋宏幸氏による、「社会」「観客」「批評」を考える講義となりました。
同時代の研究者や作演出家自身によって多様な言説が生成され、現在に数多の文献を残した「アンダーグラウンド演劇」を研究することは、日本の近現代演劇批評史の正統な流れを汲んでいるといえます。高橋氏によれば、動員数でみれば圧倒的に演劇界の主流であった新劇に対し、俳優に提示する肉体思想や劇場論など、包括的、積極的に言説化していったという点において、アングラ演劇は歴史の奪還ともいえる戦略的勝利をおさめました。それは、学生演劇出身の、あるいは新劇から外れて自ら劇団を主宰したアングラ世代の作演出家たちによる、いかに新劇を乗り越えるかという権力闘争であったと考えられます。
アングラ世代に敗北の経験を植え付けた60年安保、そして同様に多大な影響を与えた思想家・吉本隆明の存在について言及しながら、高橋氏が紹介したのは1963年の『真田風雲録』です。60年安保におけるオールドレフト対ニューレフトの構図を指摘する吉本の論文を下敷きに構成された福田善之のこの作品は、民衆運動での敗北の経験を癒すものであり、民衆演劇と呼ぶことができるものだと述べます。一方で、よりラディカルな学生運動が盛んになった65年前後からは、福田の後続として唐十郎や鈴木忠志が台頭し、アングラ演劇の主題は必ずしも政治的な問題がすべてではなくなっていきます。そのなかで、唐率いる紅テントが新宿西口公園でゲリラ公演を決行するなど、一過的な、けれどもシンボリックな活動を展開したのに対し、70年代に入り福田・佐藤信ら黒テントが別のアプローチをみせます。黒テントは公共圏の中に演劇を参入させるべく、公有地での上演の実現のために実際に地域に赴き、自治体と交渉を重ね、長期的に闘う姿勢を示し、そこには社会的革命のために地道な文化的活動路線をとらんとしたイタリア人思想家・グラムシの理論にも類似したメンタリティが認められると高橋氏は解説します。公有地闘争にみられるようなアングラ演劇の政治性は、現在の利賀村や世田谷パブリックシアターといった公共劇場誕生の下地になっているのです。
今回も講義の後半では、講座受講前に提出が求められていた課題の全体での共有が行われました。森山氏、高橋氏それぞれから頂いたコメントや講義前半の高橋氏のレクチャーを受けて、受講生が新たに抱いた意見や疑問についてもその場で講師からの応答があり、受講生たちは事前課題で自身が挙げた問題意識を各々深めているようでした。
(芸術公社インターン・重城 むつき)