レポート

森山直人ラボ|第5回

2017.10.30

10月26日(木)、森山ラボの第5回が、港区・SHIBAURA HOUSEにて行われました。

このラボでは、演劇批評家であり京都造形芸術大学舞台芸術学科教授の森山直人氏をディレクターに迎え、舞台芸術史と「いま・ここ・わたし(たち)」を接続する技術というテーマのもと、各回講師を招いて講座を行っています。今回は、ロシア文学者、ロシア語通訳・翻訳家の上田洋子氏による、「国家」「共同体」「個人」を考える講義となりました。

早稲田大学演劇博物館の助手を経て、メイエルホリドに興味を持った上田氏。しかし森山氏も言うように、資料は数多く残っているものの、研究があまり進んでおらず、アプローチしにくい人物として考えられていました。演出家の時代を作った最初の人物とされながら、1940年に粛清されたメイエルホリドの人生や作品を通して、ロシア演劇やロシア・アヴァンギャルド、ひいては今回のテーマである「国家」「共同体」「個人」について考えてゆきます。
 メイエルホリドは、彼の実施した「ビオメハニカ」と呼ばれる演劇身体訓練でよく知られています。「弓で矢を射る」や「平手打ち」、「短剣で刺す」など、決まったエチュードを俳優に叩き込んでいく方法です。講義では貴重な映像資料を観せていただき、実際の様子を知ることができました。上田さんは、「メイエルホリドが一番執着していたのは、ハイパーな俳優を作り上げること。そのために、効率の良い体の使い方を模索したり、俳優の徹底的な自律性を求めたりしました」と、彼が追い求めた理想を語ります。さらに、メイエルホリドの演出家人生で注目すべき点は、「2月革命をはさんで活躍していたこと」だと上田さんは言います。それぞれ約20年間の活動のなかで、革命以前は帝室劇場の演出を手掛け、革命以後はロシア・アヴァンギャルド的な作品を手掛けた。その両方の演劇的性質を行き来する姿勢があったことが、非常に興味深い点だと言えるようです。確固たる研究を背景にした上田さんの軽快な語り口に受講生も魅了され、密度の濃いレクチャーとなりました。

講義の後半では、活発な質疑応答が行われました。ロシア・アヴァンギャルドにおけるマテリアリズムへの執着や、メイエルホリドと彼の師匠・スタニスラフスキーの関係性、メイエルホリドが求めた俳優像など興味深い話題が飛び交い、時間を惜しむように講義は幕を閉じました。

(芸術公社インターン・庄子真汀)

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