森山直人ラボ|第4回
2017.10.5
9/29、森山ラボの第4回目が港区・SHIBAURA HOUSEにて行われました。
このラボでは、演劇批評家であり京都造形芸術大学舞台芸術学科教授の森山直人氏をディレクターに迎え、舞台芸術史と「いま・ここ・わたし(たち)」を接続する技術というテーマのもと、各回講師を招いて講座を行っています。今回は、日本とドイツにおける20世紀以降のパフォーミング・アーツを専門とする演劇研究者・萩原健氏による、「社会」「観客」「批評」をテーマとした講義となりました。
まず、森山氏からのイントロダクション。「ひとくちに“ヨーロッパ演劇史”と言っても多様な背景があることから、国ごとに演劇史を掘り下げることで見えてくるものがある」と、大きな演劇史の流れを捉えるひとつの観点を示します。第2回の川島氏はイギリス、第3回の横山氏はフランス、そして今回の萩原氏はドイツを扱うということで、ラボ全体にもそのような流れがあることがわかります。とくに今回は、ドイツの演劇を通して「社会」「観客」「批評」のキーワードを考えることで、演劇への理解を深めてゆきます。
萩原氏によるレクチャーのテーマは、「20世紀前半のドイツにおける『演出家の演劇』」。19世紀後半、劇場と観客をめぐる多種多様な関係性が、“演出家”を名乗る芸術家たちによって試みられた背景があり、20世紀前半のドイツはそういった「演出家の演劇」が最も活発に展開された地域であったといいます。そのなかでも今回は、マックス・ラインハルト、エルヴィン・ピスカートア、ベルトルト・ブレヒトの3人に焦点を当て、講義が進められました。
彼らが意図したのは、舞台と観客席のあいだにある、いわゆる“第四の壁”を破ること。たとえばラインハルトやピスカートアは、大掛かりな舞台装置などの技術的手段を活用し、そこに居合わせた観客を物理的・身体的・心理的に物語のなかに引き込もうとする演劇を試みました。またブレヒトは、演劇を用いて議論の場を作ろうとする教育劇を手がけました。さらに講義は現代につながり、リミニ・プロトコルの演劇についても触れられました。ここで萩原氏は、「劇場とは現場に居合わせた人みんなで一緒に考える場所」というリミニ・プロトコルの演出家の言葉を強調していました。このような「社会」「観客」「批評」につながる例を数多く提示していただき、質疑応答の時間では多くの質問が活発にやりとりされました。
講義の後半は、今回の講義前に提出した課題を共有する時間となりました。各受講生が自らの課題について短く発表し、それぞれが抱いた問いを直接講師の方にぶつけます。「大きな物語が崩壊し拠り所のない時代のいま、演劇にできることはなにか」、「海外での演劇の役割と日本でのそれを比べたときの違いについて」など、演劇に深く関わる受講生からは切迫した問題意識が投げかけられました。
(芸術公社インターン・庄子真汀)