夏期集中ラボ 公開プレゼンテーション1日目|盛岡
2017.8.26
いよいよ最終発表の本番1日目。今日発表するのは、柴田悠さん、有馬寛子さん、内田聖良さん、小松理虔さんの4名です。講評には、服部浩之氏と相馬千秋に、石倉敏明さん、瀬尾夏美さんが加わります。会場は盛岡劇場のミニホール。今日と明日は公開プレゼンテーションのため、地元の方々も聴講に来てくださいました。
柴田悠「つぎはぎ野良着プロジェクト」
トップバッターは柴田さん。この1か月を通して、自分自身の「東北への向き合えなさ」を
考えてきました。プランでは、秋田の端縫いや青森のボロなど、それぞれの家で引き継がれる端切れを縫い合わせた衣服に着目しました。具体的には、
1 毎冬に集落に滞在し、雪かきを手伝う
2 報酬として古着や端切れをもらい、その布にまつわる物語を聞かせてもらう
3 野良着に布を縫い付けてもらう
ことを5年間続けることで、その野良着が語りの集合体となり、すなわち共同体の変遷を辿る試みです。柴田さんは、外部の人間として東北の集落に入ることで向き合いたいと発表しました。
講評では、瀬尾さんや服部さんから、「この作品は誰に見てもらうのか、誰に向けたものなのかをしっかり考えるべき」という意見が。石倉さんからは、「同じボロや端縫いでも、地域によってそのものの意味や扱われ方は異なる。そこをもっとリサーチした方が良い」とのコメントがありました。相馬は「このキャンプで民俗学に大きく影響を受けたことは大切。けれど、それを表現者としてアウトプットするためのジャンプが足りない。従来の東北のイメージを揺さぶるアプローチをよく考えて」とアドバイスしました。
有馬寛子 「アーティストと子どもたちが考える「ふるさと」との向き合い方」
岩手出身、現在は秋田に住む有馬さん。自身が研究してきた東北地方の生活つづり方運動を起点に、震災後の学校の美術教育を考えるプログラムを発表しました。生活つづり方とは、子ども自身の目で見つめた生活を、文章や絵で表現する手法です。リサーチでは、山田町の学校を取材。震災後、子どもたちの心が揺れ動いて不安定になってしまった現状を知ったといいます。
プランは、学校を訪れるアーティスト自身の課題の追求と思考を子どもたちが追体験することで、子どもたち自身の抱えるものに向き合うきっかけを作るというものです。
アーティストがイベント的ではなく長期的に関われるよう、
1 授業外の関わり
2 特別活動の出張授業
3 年間の指導計画に組み込んだ美術教員とアーティストの連携
といった展開を想定。具体的なプログラム案を出しながらプレゼンテーションしました。
講師陣からは、具体性があり実現可能だと思うが、むしろ想像の範囲内にとどまってしまっているといった意見が。「すでに各地で行われているアーティスト・イン・スクールとの違いを明確に」(服部)、「既存の学校のプログラムに沿って考えてしまっている。学校の枠組みにも一石を投じるような、もっと根本的な教育プログラムとして考えて」(石倉)など、今後の実現に向けてブラッシュアップしていくアドバイスがありました。
内田聖良「ちいさいまよいが~不思議なものとおはなしのお店~」
アーティストとして活動し、今後展開する新作のプランを発表したのは内田さん。
合宿や中間発表の時点でもテーマとしていたプライベートな家庭の問題から一変、家を失った人や戻れない人から聞く話を物語化し、そのストーリーが託されたモノを売るお店を出すプランを発表しました。
骨董市に出ていそうなお店のイメージや、「店員」がストーリーを「購入者」に伝える会話の様子など、ところどころワンシーンの絵や言葉が差し込まれ、内田さん独特の世界観が漂うプレゼンテーションとなりました。
「まよいが」とは「迷う家」の意味。講評では、「タイトルにある家と、実際のお店の市場のイメージのずれはどう解消するのか?」(石倉)、「どう流通させるのか、購入されたお金や価値の行先をきちんと考えて」(瀬尾)など、「交換」や「流通」を詰めていく必要性が指摘されました。相馬からは「ずっと考えてきた家の問題が、抽象化されたかたちで作品となった。あるフィクショナルな枠組みのなかで行われる対話型演劇にも見える。今後の展開に期待したい」との言葉がありました。
小松理虔「福島県浜通りで、幽霊の言葉を探す」
小松さんは、前日のリハーサルからがらりと変えたプランを発表しました。リハーサルで発表した「いわきの潮目 百日下宿プロジェクト」は、小松さんが拠点とする福島県いわきの一般家庭にアーティストを招き、100日間寝食をともにすることで作品を作ってもらうレジデンスプログラムです。
しかし、最終発表では、そのプランをプリントにまとめ、簡潔に説明して早々に終了。そこから、「福島県浜通りで、幽霊の言葉を探す」と題された、このキャンプを通して変化した小松さん自身の思考のプロセスのプレゼンテーションが始まりました。
ジャーナリズムをベースに言論活動を展開してきた小松さんにとって、今回のキャンプで、自身のスタンスであったデータやエビデンスの話は一度も出なかったことに驚き、「東北には日常の中にフィクションが柔らかに存在し続けている」と感じたそうです。その想像力を福島に取り戻すために、自分自身が表現者となることを決意。小松さん自身が下宿プロジェクトに参加し、小説を書くプランとなりました。
講師からは、小松さんの変化と決意に感動したとの声が。その上で、アーティストに期待しすぎないこと、肩の力を抜いて、長期的に取り組んでほしいといったアドバイスも。相馬は「自分のキャリアがしっかりあるのに、それとは別の方向にジャンプしたことに勇気づけられた。このプレゼンテーション自体が、レクチャーパフォーマンスのよう。頑張って実現させてほしい」とコメントしました。
受講生の大いなる飛躍を目の当たりにした1日目の公開プレゼンテーション。実りある時間となりました。公開プレゼンテーションは明日も続きます。